<interview>

textur3 features vol. 2|志磨遼平 (ドレスコーズ)


音楽家、文筆家、時には俳優として。

日本の文芸界を横断し続ける唯一無二の表現者、志磨遼平。伝説のロンドンスタジオでのレコーディングを経て14年、ついに実現した「自身初の海外単独公演」。その舞台は、奇しくも彼がかつて歌に描いた地、上海であった。私たちは、その身に宿す「神懸かり」とも呼ぶべき熱狂を、この街のステージへと、彼を召喚しようと試みた。かつての映像の中に見た「東京の昨日」を、今ここにある「現地の現在(いま)」へと重ね合わせるために。

2000年代の日本のインディー・ロックシーンにおいて、その「異色」を決定づけた伝説的バンド、毛皮のマリーズ。華美な言葉と狂乱のライブで時代を揺らした当時のフロントマンは、いま、流動的なメンバー構成を伴う「ドレスコーズ(the dresscodes)」として活動を続けている。その変幻自在なスタイルは、「ロックンロール」への飽くなき解釈と、再定義を繰り返すプロセスそのものである。

そして中国初上陸を目前に控えた、2025年の初夏。 最新作『†』に込めた意図、リスナーとの関係性の変化、そして「バンド」という表現の実践。形を変えながらも核心を突き続ける彼の真意に、textur3 はテキストを通じて触れてみた。

(2025年6月 実施 / 2025年6月27日 公開)










志磨遼平 (ドレスコーズ)

ステージでの振る舞いは、
それがぼくの本来の “人格” なのかもしれません。




textur3:改めまして、新譜『†』のリリース、おめでとうございます!全体デザインや曲構成から、決定的な何か、まさに「再デビュー」のような決意を感じました。今作を作ろうと決めた瞬間やきっかけ、そしてその創作の意欲はどこから来たのでしょうか?

志磨遼平:ありがとうございます。昨年に自叙伝『ぼくだけはブルー』を書き上げたことが大きなきっかけのひとつになりました。これまで休まず続けてきた新曲制作の手を止めて、じっくりとこれまでの半生を振り返ったことで、自らに与えられた使命に改めて気付くことができたのです。



textur3:思えば、世間ではここ数年「再デビュー」的な作品が多く見られるようになりました。個人の選択というだけでなく、コロナ禍以降の環境の変化も大きな影響を与えていると思いますが、志磨さんはこうした変化をどのように受け止め、創作にどう反映させていますか?

志磨遼平:たしかに、コロナ禍は我々にさまざまなかたちの影響を与えましたが、今回のぼくの新譜『†』にとっては無関係です。コロナ禍以降にも複雑で困難な社会問題は後を絶たず、それらに対する葛藤や反発が『†』には反映されています。あるいは、こういうことも考えられます。たった100年前まで、人類の平均寿命は40歳程度でした。現代の我々がその2倍の長さの人生を生きるためには、どこかで「再デビュー」が必要なのかもしれません。






textur3:『†』について語るときやはり“ロック”は欠かせない要素です。多くの批評では「レトロ・リバイバル」と評されることもありますが、志磨さんによるロック史の私的解釈のようにも感じました。AメロBメロ・サビの構成や、様々なギターテクニックの重なりが「懐かしくも新しい」印象を与えます。志磨さんが“ロック”を個人的に再解釈していく上で、最も困難だった点は何でしょうか?

志磨遼平:特に困難はありません。ぼくの作曲において重要なのは、懐かしいかどうか、新しいかどうかではなく、永遠の価値があるかどうか、普遍的な輝きがあるかどうかという一点のみです。ぼくがこれまで何度も聞き返してきた古今東西の名曲の数々と同等のものをいつか作りたいのです。



textur3:ライブでの志磨さんは、情熱的で感情豊かなパフォーマンスが印象的です。SNSやテレビなどで見られる姿とは大きく異なるほか、同じツアーでも公演ごとにかなり異なる印象を受けます。普段からステージでの“人格”と、それ以外のときとで、意識して分けられていますか?

志磨遼平:普段のぼくは、世間一般の良識やルール、あるいは日本独特のしきたりといったものに従って理性的に行動しています。しかし、ライブではそういった抑制から一時的に解放されるような感覚があります。ステージでのぼくの振る舞いは幼少期の頃と同じぐらいわがままで傲慢です。それがぼくの本来の “人格” なのかもしれません。





   


textur3:2025年の現在、志磨さんの中で“ライブ”への考え方に大きな変化はありましたか?

志磨遼平:今よりも若い頃は、客席に集まった観客がみんな “敵” のように思えていました。ぼくがステージで失敗することを期待して集まっているのではないかと思えてなりませんでした。その人たちをねじ伏せて、降伏させることがぼくの望みでした。今でもその妄想が消え去ったわけではありませんが、今のぼくとファンの間にはとても強い結束が生まれているように感じています。



textur3:以前のご出演やインタビューの中で「自分の中にものすごく恐ろしいものがいる」と語っていましたね。現在、その化け物とはどのように付き合っていますか?また創作の中で、そのネガティブな感情はどの程度まで表現されていますか?

志磨遼平:かつてのバンドメンバーはぼくにとって共同制作者でもあり、かけがえのない友人でもありました。ぼくは創作を優先するあまり、その友人たちを傷つけてしまうことを何よりも恐れていました。現在はメンバーが流動的に変化するようになったことでそのプレッシャーから解放され、その化け物を思いきり自由にさせることができるようになりました。ネガティブな感情はぼくの創作にとって欠くことのできない要素の一つであり、すべて包み隠さず表現されています。






textur3:自伝の出版、コラムの連載、映画出演など、文学や芸術分野で様々な表現活動を行っておられますが、それらと音楽で使っている表現の言語は共通するところはありますか? それぞれの間に特別な影響や繋がりはありますか?

志磨遼平:音楽にとっての言語は音韻がなにより重要です。執筆活動に比べればずいぶん不自由で、たった数小節の歌詞を書くために幾晩も費やすこともあります。執筆活動では音楽よりも親密でくだけた表現を使いますが、そこでの思考がまた音楽にフィードバックされることもよくあります。映画や舞台作品への参加で得た経験や知識は、ライブハウスでは決して得難いものばかりで、近年のぼくのパフォーマンスに強い影響を与えています。



textur3:ドレスコーズのライブメンバーは常に変化していますが、今回の中国公演で志磨さんと共にステージに立つメンバーについてご紹介ください。

志磨遼平:ドラマーのビートさとしはskillkillsという前衛的ラップグループのメンバーで、驚異的なテクニックを備えています。キーボーディストの中村圭作は日本を代表するインストゥルメンタルバンド、toeでも活躍されています。ベーシストの有島コレスケはソロプロジェクトのかたわらで数えきれないほどのバンドをサポートする多忙なマルチプレイヤーです。ギタリストの田代祐也は若くしてすでに自らのプレイスタイルを確立している天才でありアーティストです。





textur3:ご自身の創作の各時期から、ドレスコーズを初めて知るリスナーにぜひ聴いてほしい曲を1曲ずつ選ぶとしたら、どの曲を選びますか?

志磨遼平:とても難しい質問ですね。結成当初、4人編成だった時期からは “Trash” を。ソロプロジェクトになったばかりの時期からは “スーパー、スーパーサッド” を。『平凡』『三文オペラ』『ジャズ』の三部作からは “エリ・エリ・レマ・サバクタニ”を。コロナ禍以降の近作からは “ピーター・アイヴァース” を選ぼうと思います。



textur3:中国のファンの皆さんへ、メッセージをお願いします!

志磨遼平:ドレスコーズを発見してくださったことに感謝と敬意を。ロックンロールの歴史の前では国境も国籍も意味を持ちません。ドレスコーズにとって初めての海外公演となる上海公演が最高のパーティーとなりますように。皆さんにお会いできるその日を心待ちにしています。











Produced & Coordinated by:Zing
Text & Edit:neciak
Photography:Yuji Watanabe、森好弘
Design:10000



textur3   2024-2026